日本でRWD研究を学べる研究室について

こんにちは、すきとほる疫学徒です。

 

本日は、何人かの方からご希望頂いていた「日本国内でReal World Data研究を学べる研究室」について記事を書きます。

 

製薬企業などインダストリーにおいてもますます注目を集めるReal World Data(RWD)研究ですが、RWD研究を学ぶ上で最も大切なことは「自分自身の手でデータに触れ、クリーニング、変数設計、解析を行うこと」だと思います。

 

例えば、二人の料理人が目の前におり、あなたはどちらか一方の作った料理のみ食べることができます。

  1. 普段から実際に食材に触れ、自身で調理を行う料理人
  2. レシピのみを作り、食材の選択や調理は他の人に任せている料理人

 

私は、1の料理人を選びます。

「普段から自分で食材に触れているんだから、質の高い食材の選び方とか、より美味しい調理法とか知ってるはずだよね」と考えるからです。

 

RWD研究に関しても私は同じイメージを持っておりまして、やはり普段から自分でデータに触っている研究者の方が、データの癖や良し悪しをしっかりと把握していると考えています。

 

例えばDPCデータの様式1にある喫煙やADLのデータを使いたい際に、実際に自分で様式1に触ったことのある研究者であれば、「欠損が70〜80%程度あるから、対処が必要」ということも分かるでしょう。

 

こうした経験を積み重ねることで、ただの電子データの集合体であったRWDの中に、個々の患者の息遣いを聴き、より実現可能性があり、ダイナミックな建久計画を立案できるようになっていくのだと思います。

 

特に、製薬企業の疫学専門家を目指す方にとっては、自分自身でRWDを解析する経験は必須です。

 

そのためには、RWD研究のノウハウがある研究室に所属し、高い専門性を持つ先生、先輩方からご指導賜るのが一番の近道でしょう。

 

こればかりは、いくら論文を読もうが、どこかのRWD研究のメンバーとしてプロジェクトに参加しようが、自分自身でデータに触れる機会なしには身につかないスキルだと思います。

 

また、RWD研究を行なっている研究室を卒業することで、もしかしたら卒後もその研究室が有するRWDにアクセスする機会を頂けるかもしれません。

 

加速度的にあちこちで新しいRWDデータベースが立ち上がっていく中で、疫学専門家としての腕を保ち続けるためには、そうしたRWDデータベースに触れ、解析することのできる環境を維持し続けなれければなりません。

 

その意味でも、RWD研究を行う研究室を卒業するということは、アドバンテージをもたらしてくれるでしょう。

 

 

前置きが長くなってしまいましたが、では早速研究室の紹介に入っていきたいと思います。

なお、このブログにおけるRWD研究とは、「診療報酬請求データや電子カルテデータなどの2次的医療大規模データベース」と定義します。

 

ここで紹介する研究室は、RWD研究を毎年コンスタントに出版し続けているかどうかという基準でピックアップしました。

 

もちろん、ここで紹介している研究室以外にもRWD研究を行なっている優れた研究室は存在するでしょうし、”紹介しなかった=優れた研究室ではない”ということは全くありません。

単に私のリサーチ不足ですので、もし「この研究室もイケてるよ!」という研究室があれば、ぜひ教えて頂けますと幸いです。

 

また私自身は紹介する研究室の関係者ではありませんので、研究室の紹介には、教授のキャラクターや学生同士の仲の良さ、支援の手厚さなどのソフトな情報は一切盛り込めておりません。

 

単純に、出版された論文の内容、数といったハードな情報のみからの紹介になることをご留意願います。

 

 

本ブログは、私が業務上知り得たいかなる情報にも基づかず、一般論もしくは広く公開された情報のみに基づき執筆されています
本ブログは、私個人の責任で執筆され、所属する組織の見解を代表する物ではありません

 

  

 

 

 

慶應義塾大学 薬学部 医薬品開発規制科学講座

日本薬剤疫学会の理事長である漆原尚巳先生が運営されている研究室です。

https://www.pha.keio.ac.jp/research/rs/index.html

 

”医薬品開発規制化学講座”という名の通り、RWD研究の中でも特に薬剤を対象とした研究を精力的にご出版されています。

RWDとしては、特にJMDC1やMDV2を使用した論文を出版されている印象です。

1 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33618992/#affiliation-1

2 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30477926/

医薬品開発規制科学講座から出版される論文は、方法論がとても丁寧に検討されており、いつも参考になります。

 

論文中の曝露やアウトカムの定義方法、使用する統計解析の記載などを読んでいると、方法論を設定する前にしっかりと理論的な考察を行なっているのだろうということが伝わってきて、「私もこれくらい丁寧に研究していきたいな」といつも感銘を受けております。

 

 

発見したのは1本のみでしたが、非常にコストがかかるとされるアウトカムのバリデーションスタディにも取り組んでいらっしゃいました。

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31408480/#affiliation-1

 

   

 

 

 

東京大学大学院医学系研究科 公共健康医学専攻 臨床疫学・経済学教室

康永秀生先生が運営されている研究室です。

http://webpark1262.sakura.ne.jp/wordpress_2/?page_id=40

 

康永秀生先生はRWD研究、疫学研究の初心者に向けて大変面白い書籍を数多く出版されておりますので、康永先生のお名前を聞いたことのない方でも、本を見れば、「あ、この本を書いた先生か!」となるのではないでしょうか?

 

かく言う私も康永先生のご書籍は何冊も読み、勉強させて頂いてきました。

 

 

 

 

こちらの研究室で何と言っても特筆すべきは、その生産性の高さだと思います。

ホームページのPublication listを拝見しますと、何と毎年50〜80本の論文をコンスタントに出版され続けており、一体何がどうなっているのか想像が及びません。

 

これだけ多くの書籍を出版されて、加えてそれ以上の論文も出版されているとは、超人としか言いようがありません。

 

RWDとしては、特にJMDC3やDPCデータベース4、NDB5に介護保険データベース6と非常に多岐にわたるRWDを活用してらっしゃいます。

3 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32681904/

4 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33349571/

5 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30088267/

6 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28082034/

特にDPCデータベースを用いた研究を数多く出版されていますが、こちらの研究室で使用されるDPCデータベースはMDVによるDPCデータベースや、後述する京都大学大学院の研究室で使用するDPCデータベースとはソースが異なるデータベースです。

 

東京医科歯科大学大学院 医療政策情報学の伏見清秀先生を中心として構築された伏見班DPCデータベースであり、全国のDPC病院のうちの約50%に該当する約1000DPC病院からのデータで構築されております。

 

NDBを除けば、他種のRWDの追随を許さない、圧倒的な規模のRWDだと言えると思います。

 

  

 

 

 

京都大学大学院 医学研究科 社会健康医学系専攻 健康解析学講座

川上浩司先生が運営されている研究室です。

https://kupe.med.kyoto-u.ac.jp/index.html

 

非常に大規模な研究室で、ホームページのメンバー紹介を見ると、かなりの数の博士課程の学生が在籍している様子が見て取れます。

RWDとしては、特にJMDC7やDPCデータベース8、NDB9と、日本で利用可能なメジャーなRWDを使用した論文を出版されています。

7 https://bmjopen.bmj.com/content/bmjopen/9/12/e031816.full.pdf

8 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30773390/5 https://www.jstage.jst.go.jp/article/endocrj/67/10/67_EJ20-0129/_html/-char/en

9 https://www.jstage.jst.go.jp/article/endocrj/67/10/67_EJ20-0129/_html/-char/en

 

特筆すべきは、以下2つのRWDでしょう。

 

・RWDデータベース10

全国約220の医療機関から、約2300万人分の電子カルテデータを集めてたデータベースです。

電子カルテデータには、診療報酬請求データでは入手できない検査値などの貴重なデータが含まれますが、それをここまで大規模に集めたRWDは、少なくとも国内においては類を見ません。

例えば、同じく電子カルテデータであるMID-NETは約30病院(それも大規模病院ばかり)と、サンプルサイズに大きく差があります。

10 https://reader.elsevier.com/reader/sd/pii/S0025619619310766?token=40D210FBCEC5D30673D2F49D2CF23DBA462483ED1CA01BF1637AB3134FA289CD6BFC6B0C38B541E51A7588D41DCC29E5&originRegion=us-east-1&originCreation=20211230094453

 

非常に価値の高いRWDであり、電子カルテが必要な薬剤疫学研究がしたいという場合は、間違いなくデータソースとして第一選択に上がるRWDだと思います。

 

  

・母子保健、学校健診データベース11

RWDと言うと、診療報酬請求や電子カルテデータが主たるデータソースになりますが(JMDCは一部特定健診データを有しますが)、その中で母子保健や学校検診の情報をもとに構築されたこれらのデータベースは一際目を引きます。

 

例えば、こちらの研究は上記のデータベースを用いて行われており、母、出生児、そして3歳時点での体重が、15歳時点での肥満に影響しているかどうかを調べた貴重な研究です。

11 https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1111/ijpo.12597

 

 

これらの潤沢なRWDを組み合わせることで可能になる、健康ライフコースデータの活用は大変魅力的なコンセプトであり、まさにRWD構築の目指すべき一つのゴールと言えるのではないでしょうか。

健康解析学講座 研究内容のページより抜粋

 

 

  

 

 

終わりに

さて、いかがでしたでしょうか?

日本で精力的にRWD研究を遂行されている3つの研究室を紹介致しました。

 

繰り返しになりますが、私はそれぞれの研究室の現在の内情を知っているわけではないので、あくまでもオープンになっている情報からのみの紹介となります。

 

ですので実際に入学を考えている方は、教授のキャラクターや、院生同士の関係性、サポート体制などをお調べになった上でアプライされることをお勧めします。

 

また、私のリサーチ不足により調べきれなかった研究室もあると思いますので、その際は「こんな研究室もあるよ!」と教えて頂けますと幸いです。

 

 

 

 

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