製薬の疫学専門家キャリアのメリットについて

こんにちは、すきとほる疫学徒です。

今回の記事では、「なぜ私が製薬の疫学専門家になったのか」というキャリア形成のモチベーションを綴ろうかと思っていたのですが、「私個人のモチベーションなんて発信しても、読者は興味ないよね」と思いとどまりまして、そのモチベーションをもう少し一般化して、「製薬の疫学専門家キャリアのメリット」という視点から綴っていこうと思います。

 

本ブログは、私が業務上知り得たいかなる情報にも基づかず、一般論もしくは広く公開された情報のみに基づき執筆されています
本ブログは、私個人の責任で執筆され、所属する組織の見解を代表する物ではありません

 

 

 

 

 

疫学専門家キャリアのメリット

メリットを説明する上で、「私自身がどのような軸でキャリア形成を考えていたか」ということをお伝えした方が良いと思うので、まずこちらに私が求めていた環境を。

 

  1. 疫学専門家として成長し続けられる環境である
  2. 仕事は人生の50%程度でしかなく、経済的・時間的にゆとりのある生活が送れる環境である

 

「病に苦しむ人を救うために」とかカッコいいことを言えたら良いのかもしれませんが、私はそこまでシビアな人間にはなれないと、ある時自覚しました。

ですので、自分にできる限りでほどほどに世の中に貢献し、そんでもってあとは余暇を楽しむ、という心持ちでキャリア形成をしております。

 

また、大学院生の時は、言わずもがな誰もがお金(学費)を払って疫学研究を行っていると思います。

ある時、「え、疫学を仕事にすれば、お金もらって疫学できるの?それやばくない?」と気づいてしまい、まさに私にとってのコペルニクス的転回でありました。

 

日本で研究者としてのキャリアを追求しようとすると、「第一選択はアカデミア」という声が強いかもしれません。

私も当初はそう思っており、アカデミアではなくインダストリー就職を選んだ理由の一つとして、「研究室の先生、先輩たち優秀すぎなんですけど、自分にはアカデミア無理なんですけど」という挫折があったということもありますが、こうして製薬企業で疫学専門家として働き始めた今では、「研究者としての腕を伸ばしたいからインダストリー」という選択肢も十分あり得るのではないかと思っています。

 

さて、そんな前置きはそろそろ終わりにし、メリットのお話を始めましょう。

 

 

 

国内にいながら、グローバル環境で働ける

当然ながら疫学研究は世界中で行われておりますが、それまで私が経験していた疫学研究は、殆どが日本をフィールドとしたものでした。

ただ、誤解しないで頂きたいのですが、私は日本<グローバルのような意識は全くありません。

研究結果の外的妥当性の観点からは、日本で行われた研究の方が日本のヘルスケアプラクティスに外挿しやすく、意義があると思っています。

 

しかし、欧米のトップ大学に留学した友人たちが華やかに活躍していたり、また疫学をリードする研究が欧米から生産され続けてきた中で、「グローバルスタンダード」がどういうものなのか(そもそもグローバルスタンダードなるものが存在するという考えが、海外コンプレックスに起因する幻想かもしれませんが)、肌感覚として経験してみたいという気持ちがありました。

 

しかしながら、色々な事情で海外に拠点を移すことが難しかったため(その勇気がなかった、と解釈して頂いて良いのですが)、「フィジカルに日本にいながら、疫学を使ってグローバル環境で働ける仕事はないだろうか」と思うに至っています。

 

そこで思いついたのが、外資系の製薬企業の疫学専門家職でした。

ここから先の情報は、あくまでも「外資製薬の疫学専門家って、だいたいこんな感じ」という一般論でして、それぞれの会社別に差異はあるという前提のもとで読んで頂けますと幸いです。

 

日本において製薬企業が疫学研究を行う際には、他国(特に欧米)の疫学専門家と密にコラボレーションすることが求められるかと思います。

例えば、A国とB国で同じ薬剤の安全性に関する調査をする際に、A国の研究とB国の研究で、設定している安全性アウトカムが180°違う、みたいなことになると、読者からしたら違和感ありありですよね。

安全性アウトカムを設定する背景には、当然ながら科学的に妥当な理由があるべきであり、A国とB国の安全性プロファイルが全く異なる、みたいな状況がない限りは、両国で行う疫学研究の安全性アウトカムが大きくずれいてるというのは望ましくないわけです(「そんなにアウトカムがブレるってことは、科学的に妥当な理由で設定してないんじゃない?」と思うのは当然です)。

 

また、同じ薬剤、同じ目的で研究をする以上は、国が違えど疫学専門家同士で助け合えるシチュエーションはたくさんあるはずで、お互いの目を通し合うことで、より研究のクオリティを上げることもできます。

 

そういった理由で、日本の疫学専門家も、他国の疫学専門家と密にやりとりし、「ここの曝露の定義はどうしてこう設定しているのか?」、「比較薬はなぜYなのか?」などと、研究計画書の上から下まで、ずーっと細かいやりとりを続ける必要があります。

 

もちろん言語は英語ですし、日本と欧米の疫学専門家の視点の違いなんていうのもあったりして、非常に勉強になっています(私は長期留学経験がなかったので、最初は英語に苦労しましたが、さすがに毎日英語で仕事しているので、このところはそこまで強いストレスを感じずに話せるようになってきました、よかった。。。)。

また、私の場合は、私自身の所属がグローバルになるため、同僚はほぼ全て国外の疫学専門家です。

いろんな国のいろんな疫学研究に触れることができるため、「へぇー、その国にはそんなデータソースがあるんだ」、「その国の薬剤規制制度はそうなってるんだ」みたいな発見が日々あり、大変楽しいです。

 

こちらが、製薬企業で疫学専門家として働くメリット、その1「国内にいながら、グローバルな環境で働ける」でした(余談ですが、国外の疫学専門家と働く際は、当然日本時間での会議にはならないので、早朝とか夜遅くとかの会議になってやや大変なのは、どの企業でも同じかなと思います)。

 

 

 

若いうちから大規模な研究のリードをリードする経験が積める

同じデータベース研究をやるにしても、アカデミアとインダストリーでは体制に違いがあると思いますが、最も大きな違いは「製薬企業では研究に携わる人間の数が多い」ということだと思います。

 

アカデミアのデータベース研究の場合、自分が研究のリードだったとして、日頃頻繁に関わるのは、

  1. 研究室のボス
  2. その他の研究指導者の先生
  3. 同じ研究室の先輩・後輩

 

がメインになってくるのではないでしょうか?

 

製薬企業の場合は、企業ごと、プロジェクトごとの差異はあるでしょうが、かねがね

  1. プロジェクトチーム(疫学専門家の他に、統計家、医師、プロジェクトマネージャー、データサイエンティスト、Writer、規制当局担当あたりが一般的?)
  2. プロジェクト外の社内リソース(グローバルの専門家、承認を得る際のリーダー陣など)
  3. 社外の協力企業(例えば、データベースベンダーなど)
  4. (場合によっては)病院やアカデミアの専門家
  5. そしてもちろん、規制当局であるPMDA

 

という具合に、関わる人間が圧倒的に多いです。

疫学専門家は研究の責任者としてアサインされることが多いと思うので、こうした多岐にわたる専門家から構成されるチームの意見を取りまとめ、研究の方向性を示していかねばなりません(③、④、⑤などの社外の方々と協働する場合は、取りまとめるというより議論させて頂くという表現の方が近いですが)。

 

アカデミアでこうした立場に立って研究ができるのは、それなりの時間が経てからになるのではないでしょうか(私のアカデミア経験は非常に限られているので、間違っていたら教えてください)?

一方、製薬企業では私のような若輩者でも、このような大規模チームをリードする経験を積ませて頂けるため(もちろん、若輩者だからパフォーマンスが低くても許容される、みたいなことはあり得ず、サイエンスはサイエンスとして厳しく議論します)、研究者としての腕を磨くために大変良い環境に身を置けていると感じています。

  

 

 

ワークライフバランスの良さ

Vorkersなどの企業分析サイトを見て頂ければ分かるかと思いますが、外資系製薬企業は、他の外資系の業種(コンサルや金融など)と比べて、ワークライフバランスが高水準にキープされていると思います。

 

ワークライフバランスについて、

  1. 給与水準
  2. 福利厚生

の2点から説明します。

 

  

給与水準

給与水準に関しては私個人のものは言及を避けますが、こちらもVorkersで各製薬企業を検索して頂ければ、経験年数、職種に応じた平均給与が分かりますので、ぜひ調べてみてください。

 

日本のアカデミアの場合、国立大学の教授でも基本年収は1,000万円前後であり(特許、執筆、講演料などは除外しています)、かつインセンティブ報酬などはないかと思います(ここも私が知らないだけかもしれないので、間違っていたら教えてください)。

 

製薬企業、特に外資系は私の知る限りではヘルスケア産業の中では特に給与水準が高く、また能力に応じて昇進・インセンティブを提供している会社が多いと思うので、「めっちゃ頑張って結果を出す!そのかわりご褒美はくれ」マインドの方にとっては働きやすいと思います(翻すと、パフォーマンスが出せなければ、いくら在籍していても報酬が上がらないということもあり得るでしょうが)。

 

私自身、製薬企業に就職を決める際に、色々とヘルスケアに関連した他業種(外資コンサル、シンクタンク、ミドルベンチャー、ベンチャーなど)の選考も進めていたのですが、提示された給与は製薬企業が最も高かったです(これは企業の給与体系が高いというより、私個人の専門性と、製薬企業が求める専門性がマッチしただけという可能性もありますが)。

 

 

福利厚生

製薬企業は、総じて福利厚生がものすごく良いことで有名だと思います。

こちらも給与水準同様、Vorkersをご覧頂ければ、各社が用意している福利厚生がちょっと分かるかもしれませんので、ぜひご覧になってみてください。

 

私は、人生における仕事の割合は50%までに抑えたいというモチベーションでキャリア形成しているため、「仕事にプライベートが奪われている」という状態は許容できそうにありませんでした。

就活期に外資コンサルも検討していたけれども、「絶対に合わないな」と思ったのは、これが原因です(面接の際に、「最近はだいたい22時には仕事は終えられますね」とサラッと言われたのが衝撃すぎて、その時点で選考辞退しました)。

 

私自身は普段の仕事の中で「1日の仕事は8時間まで」というルールを個人的に設けています。

もちろん、締め切りが迫っている際や、緊急の案件がある際、日本のタイムゾーン以外での会議がある際などは、このルールから外れてしまうことはあるのですが、そうした時は別の日の仕事をちょっと短くするなどの工夫をして、「平均8時間」は死守するようにしています。

 

夕方の業務時間が終われば基本的にパソコンは開きませんし、もちろん土日も開きません。

長期休暇の際も、よほど緊急かつ私自身の対応が必要な案件以外は、仕事は一切せず、徹底して休みます。

 

ここらへんのスタンスは、欧米の疫学専門家の働き方をみていて学んだことでして、特に欧州の方々は、「休む時は休む」というスタンスを徹底してらっしゃるように思えました。

最初は日本人らしく社畜マインドを持っていた私だったのですが、そうした環境で働く中で、自然と「そうだよな、休みは権利だもんな、会社に気兼ねするなんておかしいよ」と思うに至りました。

 

有給を取る理由なんかわざわざ説明する必要もありませんし、有給のために上司の許可を取る必要もありません。

 

また、家庭の支援にもサポーティブな企業が多く、親の介護や、育児、家族の看病が必要になった際も、休暇を取れる制度を用意している製薬企業は少なくないのではないでしょうか(男性の育児休暇も推奨されています)?

 

また、社員の健康を保つため、人間ドックをはじめとして、健康維持・向上のためのさまざまな福利厚生があると思いますが、そうした制度が社員だけではなく、その家族にも適用できる企業が多いのも魅力的です(心身ともに、「会社に守ってもらっている」という気持ちになります)。

 

あとは、財産形成に関するサポートですかね。

これは製薬企業だけではなく、大企業であれば大抵が用意している仕組みだと思いますが、確定拠出年金や確定給付年金などの企業年金制度だったり、Financal plannerへの無料相談制度だったり、「頂いた給与をどう運用して、将来を作っていくか」という視点で様々なサポートを受けることができます。

 

 

以上、給与水準と福利厚生について説明してきましたが、「自分だけではなく、家族の幸せも」というモチベーションで疫学専門家としてのキャリア形成を考えている人にとっては、製薬企業はとても良い場所だと思っています。

  

  

 

 

さて、いかがでしたでしょうか?

 

製薬企業の疫学専門家として働くメリットとして、

  1. 国内にいながら、グローバルな環境で働ける
  2. 大規模な研究をリードする経験が積める
  3. ワークライフバランスが良い

 

という3点を紹介しました。

 

まとめると、「疫学専門家としての成長も、プライベートの充実も、どっちもとれるじゃない!」というのが、私が感じる製薬企業の疫学専門家キャリアのメリットです。

 

 

とはいえ、メリットだけ紹介するのもフェアではない気もするので、次回の記事では製薬企業の疫学専門家として働く際の注意点について、一般論の範疇でお伝えしていきたいと思います。

 

では、本日もお読みくださり、ありがとございました。

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それでは、失礼いたします。

 

 

 

 

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