【千夜千報:第4報】コミナティは小児におけるオミクロン株コロナウィルスの感染リスクを低下させるか?

こんにちは、すきとほるです。

 

【千夜千報】では、忙しくて論文を読む時間がない方に向けて、毎晩10分で読める論文紹介をお届けします。

ただ紹介するだけではなく、疫学専門家の私が考える「ここが凄いよ!」ポイントを丁寧に解説していきたいと思います。

 

【千夜千報】を通して、「なるほど、ここはこうやって読めば良いのか」、「このデザインは、こういう意図でやっているのか」という論文を読む・書く力を養って頂くことが狙いです。

また、医学や医学研究と関わりのない非専門家の方にも、「なるほど、話題になっているこの研究って、こういうことをやっているんだ」とお楽しみ頂けるような内容になることを心がけています。

 

 

もちろん、論文を読む際には原著を読むに越したことはありませんが、日々忙しくするなかで何十分もかけて論文を読むのは難しいという方もいらっしゃるでしょう。

 

そんな方が、夜寝る前のほんのひと時に、

「へぇー、こんな論文あるんだ」

「この手法、面白そうだからメモしておこう」

「なるほど、ニュースでやってた研究、こういうことだったんだ」

 

などと、寝る前の物語りの代わりにでも【千夜千報】を覗いていってくださいませ。

 

 

なお、【千夜千報】では著作権の関係から、誰でも自由に閲覧できるOpenの論文のみを取り上げますので、ご留意くださいませ。 

   

 

 

本ブログは、私が業務上知り得たいかなる情報にも基づかず、一般論もしくは広く公開された情報のみに基づき執筆されています
本ブログは、私個人の責任で執筆され、所属する組織の見解を代表する物ではありません

 

 

 

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論文情報

Cohen-Stavi CJ, Magen O, Barda N, Yaron S, Peretz A, Netzer D, Giaquinto C, Judd A, Leibovici L, Hernán MA, Lipsitch M, Reis BY, Balicer RD, Dagan N. BNT162b2 Vaccine Effectiveness against Omicron in Children 5 to 11 Years of Age. N Engl J Med. 2022 Jul 21;387(3):227-236. doi: 10.1056/NEJMoa2205011. Epub 2022 Jun 29. PMID: 35767475; PMCID: PMC9258754. 

  

 

 

 

アブストラクト

 

 

 

 

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研究デザイン

リサーチクエスチョン

コミナティは5-11歳の小児においてオミクロン株コロナウィルスの感染リスクをReal Worldにおいて低下させるか?

 

 

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デザイン

後ろ向きコホート研究

 

 

対象集団

イスラエルにおいて2021年11月以降にワクチンを接種した5-11歳の小児

さらに、1人のワクチン接種済み小児に対し、非接種小児をマッチングした。

マッチングは年齢、性別、居住区、Population sector(なんだこれ)、過去5年のインフルエンザワクチン接種回数(健康行動の違いによる交絡を調整するためかな?)、太り過ぎ、慢性疾患数で行われた。

 

コホート研究によるマッチングは、両群で類似の属性の患者を揃えて、比較可能性を担保するために行われます。

健康行動の違いによる交絡を調整するため(たぶん)に過去のインフルワクチン接種回数を使用しているのは面白いですね。
ワクチン接種 vs 非接種みたいな比較をするときに強く問題になるのが、そもそも背景の健康行動・健康意識が両群で異なっており(ワクチン接種群は健康に気をつけている)、それらによってコロナ感染リスクが異なってくるという、Healthy User Bias(交絡バイアス)のインパクトです。
ここでは過去のインフルワクチン接種回数を代替変数として、その調整を狙っているのだと思いますが、私は初めてこういう方法を見聞きしたので新鮮でした。

  

 

曝露

コミナティの接種 vs 非接種

非接種群が追跡途中でワクチンを接種した場合には、追跡終了(Per-protocol effect)。

なお、その場合はマッチング相手がいた場合には元非接種群は新たに接種群として組み入れられる。

 

イスラエルの医療システムが私にはわからないので、このデータベースでのワクチン接種記録がどれだけ妥当性があるのかが判断できませんでした。
例えば、日本だとワクチンは保険診療外なので、診療報酬請求データでは取得できないなんていうリミテーションがあります。

非接種群から接種群へのSwitchingを許容するデザインです。薬剤Bから薬剤AへのSwitchingをした際に、これを許容してしまうと、新たな薬剤A患者でアウトカムが発生しても、それが薬剤Aによるものか、過去に曝露した薬剤Bによるものかわからず、混乱します。しかし、ワクチンの非接種→接種へのSwitchingであれば、接種日以降は非接種の影響が混在するなんてことはありませんから、曝露を綺麗に切り分けることができます。
サンプルサイズを確保する観点から、正しい選択だと思いました(もしこれを許容しないと、非接種群は全期間ずっと非接種群だった小児しか使えなくなる)。

一方で懸念されるのが、追跡開始後の離脱を認めてしまうことで生じるSelection Biasです。例えば、非接種群がのちのち接種行動をとったのは、濃厚接触者になったからかもしれません。すると、接種した後にコロナが発症し、接種群の方で過剰にコロナ発症がカウントされてしまうことになります。

 

 

アウトカム 

PCRテストで評価された新型コロナウィルス陽性および症候性の新型コロナウィルス陽性(電子カルテでいずれの新型コロナウィルスの症状が記録されていること)

上記2つのアウトカムは、初回ワクチン接種後は7-21日、2回目接種後は14-27日という2つの期間でアセスメントされた。

 

ワクチン接種同様、こちらもコロナ罹患のアウトカム妥当性の情報が記載されていませんでした。アウトカム妥当性は研究結果の確からしさをアセスする上で必須の情報になりますので、記載すべきだったと思います。

追跡期間がかなり短く、ワクチン接種の短期効果を測定したいようですが、その意図も私には分かりませんでした。短期の追跡となるため、中期以降の効果が不明であることが懸念です。ちなみに短くなっているのは、2022年1月にイスラエル全体でワクチン非接種者へのコロナ検査体制に大きな変化があって、その影響を避けるためにその変化以前のコホートに絞る必要性があったからです。
ちなみに初回接種の追跡期間が短いのは、ある程度経つと2回目接種が始まってしまうからなので、それはそれで良いと思います。

 

 

解析

交絡の調整はせず(その代わりコホートマッチングで背景因子をバランシングしている)、期間ごとに2群間のリスク比およびリスク差を計算。

(1 – リスク比)によってワクチン有効性を算出した。

  

なお各期間ごとの解析は、マッチされたペアーの双方がその期間までコホートから離脱せずに残っていた場合のみ実施。

 

 

結果と考察

2回目接種と非接種群を比べると、ワクチンのコロナ発症への有効性は51%(つまりリスク比 0.49)、症候性のコロナ発症への有効性は48%(リスク比 0.52)であった。

 

本研究では、後ろ向き観察研究ならではのバイアスが強く効いている可能性があり、直接的に結果を解釈するのは危険です。
かなり危険です。

イスラエルの医療体制を知らないため、推測になりますが、たとえば

・非接種群の方が感染リスクが高いと家族、医療者が考えて、医療へのコンタクト、検査頻度が多くなり、そのためコロナが発見される可能性も高かった(測定バイアス)
・ワクチン接種者の方が予防意識が高く、慎重に行動した(交絡バイアス)
・ワクチン非接種者が濃厚接触者になったため、その直後にコロナ発症を恐れてワクチン接種をして、接種群に移行した(選択バイアス)

などがあります。

   

    

     

 

終わりに

千夜千報では疫学・統計学の知識を利用し、さまざまな角度から論文をクリティークしております。

 

この記事で登場する知識は、『疫学に関する記事まとめ』としてこちらの記事の中にまとめてありますので、『もっと突っ込んで疫学を勉強したい!』という方は、ぜひこちらの記事を眺めてみてください。

 

トピックごとに専門性を深めるような記事もあれば、初心者向けの疫学・統計学の書籍や、無料のオンラインセミナーの紹介なども行っております。

 

  

 

 

 

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