こんにちは、すきとほる疫学徒です。
本日は、薬剤疫学に関する論文で出てくる薬関係の英語についてご説明します。
DosageとDose、PrescriptionとDispensingとか、似通ったコンセプトを表現しているけど地味に意味が違う用語がいくつかあり、ややこしいんですよね。
私は論文に出てくるたびに、「あれ、これなんだったかな」とド忘れしてしまい、調べております。
「めんどくさいわー!」ということで、自分の参照用もかねてこちらの記事を執筆することにしました。
なぜ、こうした薬関係の英語をしっかりと把握しておく必要があるかと言うと、そうした用語の違いにより研究デザインに大きな違いが生まれるからです。
例えば、薬剤処方の曝露を定義する際に、
Prescription of Drug A:薬剤Aの処方
Dispensing of Drug A:薬剤Aの調剤
では、まるっきり意味が変わりますよね?
日本の医療プラクティスでは、医療機関で処方箋を受け取った後(Prescription)、薬局にいって薬を調剤してもらい(Dispensing)、初めて患者さんの手元に薬が届くわけです。
国民皆保険のもと格安価格で誰でも薬が購入できる日本では珍しいかもしれませんが、中には処方箋は受け取ったけど、薬局には行かないという方もいるかもしれません。
この場合、Prescription of Drug Aで薬剤曝露を定義してしまうと、”調剤してないのに、内服あり”という曝露の誤測定が生じます。
ですので、Dispensing of Drug Aではなく、Prescription of Drug Aを曝露定義に使っている場合には、「あー、ここら辺で曝露の誤測定のリスクがあるな、それを踏まえて論文を読んでいこう」という判断ができるわけです。
さて、上に述べたのはほんの一例でしたが、ここからは実際に誤解しやすい薬関係の英語を紹介していきましょう。

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処方関係の英語
Prescription
上で述べた通り、Prescriptionは薬剤の”処方”を意味します。
”処方”とは、Claims dataにおける処方箋の発行を指しており、日本の殆どの医療大規模データベースでは、こちらの処方を薬剤曝露のProxy indicatorとして使用しています。
繰り返しになりますが、ここで注意すべきはあくまでもPrescriptionは薬剤曝露のProxy indicatorであるという点です。
ですので、Prescriptionという用語が登場した際には、”実際の内服とはズレがある”という誤測定のリスクを頭の片隅に置いておくべきでしょう。
なお、こちらのPrescriptionを用いることによる曝露の誤測定リスクは、薬剤によっても変わります。
例えば、臓器移植後の免疫抑制剤のように患者の高いアドヒアランスが予想される薬では、Presricptionと実際の内服との乖離は比較的小さいでしょう。
一方、降圧薬のように主たる内服者が比較的認知機能が低下している高齢者で、また一度の内服スキップが致命的な影響を及ぼさないような薬ですと、Prescriptionと実際の内服との乖離は比較的大きいかもしれません。
Dispensing/Fill
Dispensing及びFillは、医師により処方(Prescription)された薬剤を、薬局で調剤してもらうことです。
処方→調剤→内服
という流れで、実際の内服へと患者行動が近づいていきますので、Dispensig/Fillを使って曝露を定義する場合には、Prescriptionよりも一歩だけ曝露の誤測定のリスクが小さくなります。
ちなみにFillは、リフィル(Refill)のFillです。
日本ではRefill処方箋が保険制度上使用できないため、日本の薬剤疫学論文でRefillという用語を目にすることはほぼないと思いますが、米国の医療大規模データベース研究ではしばしば登場します。
DispensingもFillもどちらも調剤を指すのですが、日本の薬剤疫学論文ではDispensingばかりが使われているのは、こうした背景もあるのかもしれません。
Administration/Intake
処方、調剤ときましたので最後は内服です。
ただ、こちらは現在の日本で主に使われている医療大規模データベースでは測定が難しいので(測定できるのは基本的には処方、NDBのように調剤レセプトがあれば調剤も)、日本の薬剤疫学論文ではほぼ登場することはないでしょう。
なお、Intakeが経口薬の内服に対して用いられるのに対し、Administrationは点滴の投与などの際も用いられます。
注射するはInject、そ恩多の点鼻、点眼、貼付、塗布などはApplyですね。
容量・用法関係の英語
Dose
Dosageと間違いやすいですが、Doseは1回/1日あたりの服用量のことを指します。
薬剤疫学論文でよく目にするのは、Defined Daily Doses (DDD)という言葉でしょう。
これは、World Health Organizationが薬剤ごとに規定している成人一人あたりの投与量のことです。
薬剤疫学 with RWDで用いられるシチュエーションとしましては、例えば患者あたりの総処方量のデータはあるが、処方日数のデータがない、といった状況です。
こういった時は、総処方量をDDDで除することにより仮定の処方日数を算出し、そこから曝露期間を設定します(e.g., 総処方量が100錠、DDDが2錠なら、処方日数は50日というように)。
また、Doseは上で述べたAdministration同様に、薬剤の内服という意味でも使われることがあります(e.g., Missing dose)。
あまり薬剤疫学論文 with RWDでは見ませんが、
Dose frequency:投与回数
The maximum single dose:一回最大投与量
The maximum daily dose:一日最大投与量
Total dose:総投与量
などと使われることもあります。
ちなみに、なぜか以下の用語においてはdoseよりもamountが使っている論文を多く目にするのですが、ここら辺はネイティブがどういった感覚なのかは私には分かりません。
Appropriate amount of dose:適量
Dosage
Doseが1回あたりの服用量であったのに対し、Dosageは一定期間の服用量を指します。
日本語にすると服薬計画という感じでしょうか?
調剤してもらった薬の封筒の表面に書いてある、「1日1回3錠」というアレですね。
日本語だと分かりにくいので英語にすると、
3 doses per one administration per day = Dosage
ということになります。
なお、他の表現として、
Dosing regimen
Dosage regimen
などが使われることもあります。
Days supply
こちらは処方日数・服薬日数を指します。
同様の用語として、
Days’ supply
Day’s supply
Days of supply
などが使われることがあります。
また、近しい用語としては、処方期間である
Prescription period/duration
Administration period/duration
Treatment period/duration
などが使われます。
1点注意が必要なのが、ここでのSupplyの指す意味が文脈によって変わってくるというころです。
上に述べたように、薬剤疫学研究においてPrescription/Dispensing/Administrationは全く意味が違います。
しかしながら、Days supplyという用語では、これら3つの用語を包含するコンセプトとしてSupplyを用いているので、Days supplyという用語を見ただけでは、ぱっと見この3つの用語のうちどれを指しているかが分からないのです。
ですので個人的には、Days supplyという用語は使用せずに、明確に
Days prescription
Days dispensing
Days administration
という用語を使用した方が、論文の書き手と読み手とでのミスコミュニケーションが減る気がしています。
薬剤の継続について
Adherence
Adherenceは日本語でもそのままアドヒアランスと書かれ、処方期間のうち医師に指示された通りに薬剤を内服した日数を指します。
Persistency
Persistecyは薬剤の初回処方時点から、途切れることなく(Gap periodを除き)薬剤を内服し続けられた期間を指します。
一見すると同じような意味に見えるかもしれませんが、AdherenceとPersistencyは薬剤使用実態などの記述疫学研究でしばしばアウトカムとして設定される事象であり、計算方法が明確に異なります。
誤用して論文を書いてしまうと、「この筆者、Adherenceを測るって言ってるのに、これPersistencyじゃん、大丈夫かこいつ?」とレビュワーから不信感を持たれること間違いなしですので、しっかり理解しておきましょう。
AdherenceとPersistencyの詳細な違い、計算方法はこちらの記事で解説していますので、ぜひご覧ください。
有害事象・副反応関係の英語
これらは、非常に多くの日本人が誤解している可能性のある用語です。
Covid-19ワクチンのニュースが日夜メディアで流れる中で、我々は何度もなんども”有害事象”という言葉を耳にしていると思うのですが、Twitterなどでの反応を見る限り、副反応と誤解して有害事象を捉えている方が少なくないようでした。
日本語の時点で誤解が蔓延っているので、英語にしたらなおさらだろうということで、解説に加えてみました。
なお、これらの定義は以下の書籍を参照しています。
Adverse event
日本語では有害事象と書きますが、定義は以下です。
薬物治療中に起こる好ましくない出来事であるが、原因として医薬品が関連していることもあれば関連していないこともある
医薬品安全性監視入門 第2版 23p
肝心なのは、”薬剤Aの有害事象”という表現においては、その有害事象が薬剤Aとの間に因果関係を有するかどうかは一切問うていないということです。
薬剤Aの投与中に発生した有害事象であれば、例えば薬剤A内服と全然関係のない転倒で起こった骨折であっても、有害事象としてカウントされます。
Covid-19ワクチンの安全性に関してSNSなどで意見を表明されている方を見ますと、ここを誤解している方が大変多いように感じます。
確かに、有害事象という字面だけ見ればネガティブが感情が湧いてきて、「薬のせいでこんなに悪いことが起きている!」と誤解してしまうのも無理はないのかもしれません。
情報を発信するメディア側が、こうした誤解を招かぬように、有害事象に関する情報を発信する際には、常に但し書きでその定義を説明する、くらいはやるべきだと私は考えています。
有害事象という用語の性質上、「薬が原因で起こる好ましくない作用」よりも多くの作用が過剰にカウントされることになるので、有害事象の報告だけを見て、「こんなに!」となるのは完全にミスリードです。
Side-effect
日本語では副作用と書きます。
定義は、
医薬品の意図せぬ副作用である。通常は好ましくない作用を指すが、有用な作用であることもある。
医薬品安全性監視入門 第2版 22p
です。
3つポイントがあるので、順に説明します。
一つ目。
Adverse eventと違い、こちらでは「医薬品の意図せぬ副作用」ということですので、その医薬品を原因として起きた作用を指します。
二つ目。
「意図せぬ副作用」であり、事前に判明し、添付文章などで説明されている作用は含まれないということです。
三つ目。
好ましくない作用だけでなく、「有用な作用」を指すこともあるということです。
例えば、とある適応症Xに対して薬剤Aの使用を承認し、実臨床で使い続けていたところ、偶然薬剤Aが疾患Yにも効くことが分かり、のちに適応拡大されたなんていうシチュエーションですね。
Adverse drug reactions
非常にややこしいことに、なんとこちらも日本語では副作用と表現されます。
しかし定義はSide-effectとは異なっており、
医薬品がヒトに通常の用量の範囲で使われたときに起きる意図せぬ有害な作用
医薬品安全性監視入門 第2版 23p
です。
ポイントはこちらも3つです。
一つ目。
Side-effectと異なり、有害な作用のみを対象としていること。
二つ目。
あくまでも「通常の用量の範囲」での使用を対象としており、過剰・過小内服の結果として起こった有害な作用のみを対象としているということ。
三つ目。
Side-effect同様に、「意図せぬ有害な作用」であり、事前に判明し、添付文章などで説明されている作用は含まれないということです。
SNSでCovid-19ワクチンの安全性に懸念を表明する際、おそらく多くの方が想定しているのは、Adverse event(有害事象)ではなく、こちらのAdverse drug reaction(副作用*)でしょう。
*ワクチンなので正しくは副反応
しかしながら上で述べた通り、”因果関係の有無”という観点からAdverse effectとAdverse drug reactionという2つの用語は明確に切り分けられており、全く意味するものが異なります。
科学の世界において、「AはBの原因である」ということを示すためには、非常に多くの労力と高い専門性が必要になるのです。
また、ご覧の通り日本語では同じ副反応であっても、Side-effectとAdverse drug reactionとでは意味が異なりますので、こちらも日本語で副反応と表記することは避け、英語表記を使用すべきだと私は考えています。
終わりに
本日は以上となります。
なんだかややこしいですが、どれもクリアカットに定義が分かれているものが多く、2, 3度眺めていれば使い分けはマスターできると思いますので、これを機にばっちり理解してしまいましょう!
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