今日の論文紹介①

やってきました、今日の論文紹介のコーナーです。

このコーナーでは、私、すきとほる疫学徒が「このワザいいな」と思ったテクニックを使っている薬剤疫学論文を紹介していきます。

「自分が研究する時に使えそう」という、半ば備忘録も兼ねております。

 

 

本ブログは、私が業務上知り得たいかなる情報にも基づかず、一般論もしくは広く公開された情報のみに基づき執筆されています
本ブログは、私個人の責任で執筆され、所属する組織の見解を代表する物ではありません

 

 

 

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論文紹介

Arbel R, Hammerman A, Sergienko R, Friger M, Peretz A, Netzer D, Yaron S. BNT162b2 Vaccine Booster and Mortality Due to Covid-19. N Engl J Med. 2021 Dec 8. doi: 10.1056/NEJMoa2115624. Epub ahead of print. PMID: 34879190.

 

リサーチクエスチョン

Covid-19ワクチンであるBNT162b2のブースター接種は、Covid-19による死亡リスクを低下させるか?

 

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メソッド

コホート

Clalit Health Services(イスラエルの人口の52%が登録されている電子カルテデータベース)に登録された研究開始時点で50歳以上の者であり、かつ5ヶ月以上前に2度のBNT162b2接種を終えている。

 

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曝露

研究期間中のBNT162b2のブースター接種(非接種群が追跡中にブースター接種をした場合は、その後接種群に組み入れる)

 

アウトカム

Primary: Covid-19による死亡

Seconday: PCR検査陽性

 

結果および考察

交絡因子を調整した後の、Covid-19に対するブースター接種のハザード比は、0.10 (95%CI: 0.07-0.14, P<0.001)であった。これにより、BNT162b2の2回目接種5ヶ月目以降にブースター接種を受けた者は、受けていない者に比べ、Covid-19による死亡リスクが90%低下したことが分かった。

 

 

 

一押しポイント

今回の一押しポイントは、曝露の設定におけるmeasurement biasに対するアプローチです。

まず、筆者らは、ワクチンを接種しても7日以内は対象者を非接種者として解析に組み入れました。

これは、コロナワクチンの接種から効果が生じるまでのInduction periodを考慮しての設定です。

 

Induction periodとは、日本語で誘導期間といい、「イベントの発現に複数の要因が関連している時、ある要因の作用開始時点から、最後の要因が作用し、イベントが発症するまでの期間」を意味します。

もっと簡単に言いますと、「ワクチンを打ってから、実際にワクチンの効果がで始めるまでの期間」ですね。

 

酔い止めや下痢止めを飲んだことがある方は分かると思うのですが、薬を口に入れた瞬間から一気に効果が出て、症状が緩和されるなんてことはありませんよね。実際に薬の効果が出始めるまでには、薬を飲んで、胃で溶かされて、血液に吸収されて、そして一定の血中濃度を超えるまでの時間がかかるかと思います。

 

ワクチンにも同じように、効果がで始めるまでの誘導期間が存在するわけですね。

さて、この時、筆者らが行ったように7日間の誘導期間を設定せずに、曝露を定義してしまうとどうなるでしょうか?

 

対象者Aは、ワクチン接種の翌日にCovid-19を発症したとします。

この時、本来であればこの期間はワクチンの効果が出ていない期間ですので、実質的には対象者はワクチン非接種者と全く同じ状態です。

筆者らが見たいのは「ワクチン接種の効果」ではなく、「ワクチン接種により、ワクチンが有効に作用したことの効果」ですので、この時に2群比較は

ワクチンを接種し、ワクチンが有効に作用している群(接種8日以上が経過した群) vs ワクチン未接種/接種したが有効に作用していない群(接種7日以内の群)

という比較を行う必要があります。

 

つまり、ここで「ワクチン接種の翌日にCovid-19を発症した患者」をワクチン接種群に組み入れてしまうと、本来見たいワクチンの有効性を見る上で、measurement biasが生じてしまうことになります。

 

仮に、「ワクチンがCovid-19の発症リスクを低下させる」という仮定に立つのであれば、上記の誤測定により、本来は非接種群としてカウントされるべきCovid-19発症が、接種群として誤ってカウントされてしまうわけですから、両群の有効性の差がなくなる方へとバイアスがかかってしまうわけですね(bias toward null)。

 

 

このような事情を加味して、筆者らはワクチン接種後7日間の誘導機関によるmeasurement biasに対処するために、ワクチン接種7日以内であれば、接種者であっても非接種群として扱ったわけです。

 

 

さて、ここで気になるのが、「3度目のBNT162b2のブースター接種の効果は8日以降に発現する」という筆者らの仮定が正しいかどうかです。

もしこの仮定が間違っており、ブースター接種の効果が接種直後から発現していたとすると、「接種7日以内は非接種群として扱う」という曝露の定義は、かえってバイアスをもたらすことになります(本来はワクチン接種群で発症したはずのCovid-19を、非接種群に押し付けることになるわけですから、見かけ上はワクチン接種がCovid-19の発症を抑制する方へとバイアスが働きます)。

 

筆者らは、その仮説の妥当性を確かめるため、とある解析を行いました。

さて、どんな解析を行なったでしょうか?

 

 

 

 

 

 

 

正解は、

”7日間の誘導期間を設けずに、ワクチン接種 ・非接種群間において、接種7日以内のCovid-19による死亡リスクを比較した”、です。

また同様の解析を、アウトカムを接種7日以内のCovid-19による死亡として行なっています。

 

結果、7日以内死亡をアウトカムにした解析では有意差なし、14日以内死亡をアウトカムにした解析では接種群で有意にCovid-19による死亡リスクが低下しました。

 

これにより何が言えるでしょうか?

 

もし、ワクチンの誘導期間が7日間より短く、早々にワクチン効果を発現させていたとしたら、7日以内死亡をアウトカムにした解析でも、ワクチン接種群においてCovid-19による死亡リスクが低下したという結果となるはずです。

そうならずに、14日以内死亡のみでCovid-19による死亡リスクが低下していたことから、「BNT162b2は接種8日目から14日目の間に効果を発現している可能性がある」、つまり筆者らが本解析で用いた”接種7日以内は非接種群として扱う”という曝露定義は、適切であったと言うことができます。

 

 

終わりに

いかがでしたでしょうか?

 

私は、薬剤疫学における最も厄介なバイアスの一つは、曝露のmeasurement biasだと感じております。

薬剤疫学においては、臨床疫学における開腹オペ vs 腹腔鏡オペという2群比較のように、曝露の割り付けが一度きり、かつ瞬間的であり、さらに誤測定のリスクが少ない(診療報酬請求において、開腹オペ、腹腔鏡オペの請求が間違ってされる、請求漏れがあるということは非常に稀でしょう)というように、シンプルに曝露・非曝露を切り分けることが難しい。

 

まず、診療報酬請求でわかるのは薬剤の処方のみであり、実際に患者がその薬剤をいつ、どれだけ内服したかは分かりません。

また、処方期間にギャップがある場合、どの程度のギャップがあれば薬剤中断とみなすのかも判断せねばなりません。

加えて、同クラスの複数の薬剤が同期間に処方されている場合や、比較している2剤が同期間に処方されている場合、そして両者が途中でスイッチする場合というのが、現実には頻繁に起こり得ます。

 

これらの誤測定のリスクに対して、幾つかの仮定を設定し、曝露定義を切り分けていくことになりますが、ここは何度研究していても、「あれ、この場合だとこうなって、ああなって」と頭がこんがらがってしまいます。

 

そうした曝露の誤測定リスクに対して、今回の研究ではシンプルかつスマートな解決方法を提案してくれていたので、「これはいいぞ!」と思い、取り上げてみました。

 

それでは、今回もお読みくださりありがとうございました。

 

 

 

 

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