やってきました、今日の論文紹介のコーナーです。
このコーナーでは、私、すきとほる疫学徒が「このワザいいな」と思ったテクニックを使っている薬剤疫学論文を紹介していきます。
「自分が研究する時に使えそう」という、半ば備忘録も兼ねております。
論文紹介
リサーチクエスチョン
Claims dataにおけるCovid-19診断の妥当性はどの程度であるか?
メソッド
Validation study
2020年2月から10月17日にかけて6つのFDA Sentinel System data partnersに登録された施設に入院した患者を対象にし、検査値で診断されたCovid-19をゴールドスタンダードに、Claims dataで診断されたCovid-19の感度・PPVを判定した。
Covid-19を定義するアルゴリズム
以下5つのアルゴリズムによりCovid-19を定義した(CodeはICD-10 CM)。
Algorithm 1: U07.1 (COVID-19)
Algorithm 2: U07.1 or B97.29 (Other coronavirus as the cause of diseases classified elsewhere)
Algorithm 3: U07.1 or B97.29 or B34.2 (Coronavirus infection, unspecified)
Algorithm 4: U07.1 or B97.29 or B34.2 or J12.81 (Pneumonia due to SARS-associated coronavirus)
Algorithm 5*: U07.1 (COVID-19) orB97.29 and a pneumonia or ARDS diagnosis (listed in Table S1 in the paper)
*Algorithm 5は潜在的な重症ケースを特定するために作成
PPVの計算方法
研究期間において、各患者の最も早い時点でのアルゴリズ陽性のCovid-19患者を特定。
ゴールドスタンダードとして入院前後14日以内のNAAT(核酸増幅検査)の結果を使用し、PPVを算出。
感度の算出
研究期間において、各患者の入院前後14日以内に行われた全てのNAATの結果を精査し、NAAT陽性患者を分母とし、感度を算出。
期間別の層別解析
解析を以下の3期間に層別化して実施。
Time A: 2020年2月20日から3月31日(CDCにより初めてCovid-19のコーディングガイダンスが発出された)
Time B:2020年4月1日から4月30日(Covid-19 specificなICD-10 CM codeがリリースされた)
Time C: 2020年5月1日以降(最近のデータ)
その他、データソース、患者背景、関係する症状に着目した層別解析を実施。
結果および考察
5つのアルゴリズムにより、34,806人から47,293人のCovid-19患者が抽出された。
うち検査結果データを有していた23%の患者がPPVの算出に使用されている。
結果は以下のように、最近のデータに当てはめた際にどのアルゴリズムもPPVが低下したが、それでも5つ全てのアルゴリズムでPPVが80%以上であった。
また、同一期間においてはアルゴリズム間のPPVの差は小さかった(重症ケースを特定する目的で作成されたアルゴリズム5は除く)。
感度は以下の通り、Time B, Cではアルゴリズム間の差異は少なく、また95%前後であった。
一押しポイント
大変意味のある研究ですね。
Covid-19に関しては、各国のClaims databaseで2020年のデータが利用可能になっている頃であり(日本でもMDV DBでは既にCovid-19に関するデータベース研究が実施されていた気がします)、Covid-19を題材としたデータベース研究は世界中からバンバン出版されてくるでしょう。
一方で、Covid-19のICD-10 codeは新設されたばかりですから、当然その病名定義の妥当性というものは、世界的に不明確であったはずです。
そんな中、この論文が出版されたおかげで「この論文のアウトカム定義はどれくらい妥当なのか、誤測定のリスクはどの程度か」ということをエビデンスに基づいて議論することができるようになりました。
また、結果の通りCovid-19のアルゴリズムは、U07.1のみ(Algorithm 1)のシンプルな定義でも、比較的高いPPVと感度を有していたという事実は、アウトカム定義の妥当性という観点からは安心してデータベース研究を行う推進力となるでしょう。
もちろん、国別のCoding practiceや保険システムの差異、そもそも米国は日本のICD-10ではなくICD-10 CMを採用していることなどを加味すると、この結果を直接日本に外挿することはできないでしょうが、それでもICD-10とICD-10 CMは基本的構造や病名-Codeの対応は同一であり、大いに参考にすることができると思います。
感度、PPVが高いというのは、実臨床の感覚から相違のない結果だったのではないでしょうか?
Covid-19にspecificなcodeまで設定されている中で、実際にCovid-19と診断された患者に、Covid-19のcodeを付与しないというのはあまり起こらなさそうに感じます(感度が高い)。
また、Covid-19と患者が診断された際には、行政への報告や、病院全体での感染対応などが必要になると思いますので、Covid-19かどうか確信が持てないが、Covid-19のcodeを付与するということはあまり起こらないと想像されます(PPVが高い)。
ちなみに、Covid-19のICD-19 CM codeのValidation studyは以前にも行われており、JAMAに掲載されています。
そちらでもU07.1のみで感度98.01%、特異度99.04%、PPV91.52%、NPV99.79%と非常に高い妥当性が報告されていました。
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