こんにちは、すきとほるです。
【千夜千報】では、忙しくて論文を読む時間がない方に向けて、毎晩10分で読める論文紹介をお届けします。
ただ紹介するだけではなく、疫学専門家の私が考える「ここが凄いよ!」ポイントを丁寧に解説していきたいと思います。
【千夜千報】を通して、「なるほど、ここはこうやって読めば良いのか」、「このデザインは、こういう意図でやっているのか」という論文を読む・書く力を養って頂くことが狙いです。
また、医学や医学研究と関わりのない非専門家の方にも、「なるほど、話題になっているこの研究って、こういうことをやっているんだ」とお楽しみ頂けるような内容になることを心がけています。
もちろん、論文を読む際には原著を読むに越したことはありませんが、日々忙しくするなかで何十分もかけて論文を読むのは難しいという方もいらっしゃるでしょう。
そんな方が、夜寝る前のほんのひと時に、
「へぇー、こんな論文あるんだ」
「この手法、面白そうだからメモしておこう」
「なるほど、ニュースでやってた研究、こういうことだったんだ」
などと、寝る前の物語りの代わりにでも【千夜千報】を覗いていってくださいませ。
なお、【千夜千報】では著作権の関係から、誰でも自由に閲覧できるOpenの論文のみを取り上げますので、ご留意くださいませ。
論文情報
ちなみに、PDFはこちら。
研究デザイン
今回の論文はACCEPT Analysesという統計手法の解説になっており、普段の論文とは少し構造が異なります。
まず、ACCEPT Analysesが何かを説明し、その後にACCEPT Analysesのメリットと、実例を紹介してきます。
ACCEPT Analysesとは何か
ACCEPT Analysesを用いない場合の問題
医学研究、特に臨床研究においては解析を行う前に、その研究の目的として、ターゲットとなる介入・曝露が、比較群と比べて「優れているのか」、「劣っていないのか」、「同等なのか」、証明すべき関連を設定します。
そしてその設定のために、事前に「ターゲット群と比較群の間に、これくらいの差があればターゲット群の介入・曝露が良いものであると許容できるよね」というラインを設定するわけですね(たとえば、優越性試験であれば、ターゲットとなる薬で比較薬よりも最低10%の改善が見られる、など)。
つまり、Uacceptableな値というものを事前に設定し、解析結果がそれを上回るか(もしくは下回るか)どうかを確認することで、「ターゲットの介入・曝露は比較群と比べて〜であった」という解釈を加えることになります。
そのUnacceptable valueの閾値は(リスク差をみるとき)、試験の目的によって以下のように設定されるでしょう。
優越性試験:0
非劣性試験:0以下の特定の値
超優位性試験:0より大きい特定の値
これにより、試験結果の解釈は「目的とされた閾値を達成できたか、できなかったか」というYes or Noで判断されることになります(P-valueが有意か有意でないかという話と同じですね)。
しかしながら、このように試験結果を単純にYes or Noで判断してしまうと実際に解析で得られた情報の多くを無駄にすることになり、誤った結論に結びついてしまう恐れがあります。
P-valueを例にして解説しましょう。
たとえば、薬剤Aと薬剤Bの有効性を比較し、以下のようなオッズ比が得られたとします。
オッズ比: 2.45 (0.99-2.99, P-value 0.051)
この時、P-valueだけで有効性を判断してしまうと、0.05を上回っていますので「薬剤Aは薬剤Bとして有効性が高いとは言えない」という結論になってしまいます。
しかしながら、95%信頼区間をみると、その区間のほとんどはオッズ比1.00を上回っている、つまり薬剤Aの薬剤Bに対する有効性の高さを支持する結論となっています。
これはどういうことかというと「実際に得られたデータは、”薬剤Aと薬剤Bの有効性の間に差がない”という差なし仮説を支持しない」ということになります。
にも関わらず、P-valueだけで判断した場合には、「差があるとは言えない」という誤った結論に結びついてしまいました。
これが、P-valueのようなYes or Noの2者択一の選択肢を持って臨床研究の結果を推定することの危うさです。
さらに、非劣性試験の場合には事前に「これぐらい薬剤Aが薬剤Bと比べて劣っていなければ、良しとしよう」という劣性具合に対する閾値を設定することになりますが、ここで設定された閾値がどれほど妥当であるのかという疑問も残ります。
このようなYes or Noの臨床試験の結果の解釈に対する反省として提案されたのが、ACCEPT Analysesというものです。
では、次のチャプターではACCEPT Analysesがどんなものなのか解説していきましょう。
ACCEPT Analysesとは何か
ACCEPT Analysesを用いない従来の解析では、Unacceptable thresholdを1点だけ設けて、P-valueと点推定値を基準にして解析結果がそれを上回るか(下回るか)どうかという観点で考察を行っていました。
一方、ACCEPT Analysesは95%信用区間(本研究は頻度論ではなくベイズに基づいているので、信頼区間ではなく信用区間を区間推定に使用しています)を用いることで連続的に複数の閾値を設定し、それぞれの閾値に対して「それを上回る可能性がどの程度あるか」という考え方をします。
この記述では意味がわからないと思うので、実際の論文から図を引用しましょう。
この図で使われている数値は、EARNEST試験といってHIV患者を対象にし、標準治療とラルテグラビルという薬剤とで有効性を比較した試験から外挿されています。
オリジナルの解析では、ラルテグラビルの有効性を示す数値(%)の95%信用区間の下限値は-2.4%であり、優越性試験の閾値として設定した0%に到達できなかったことから、「ラルテグラビルの有効性は示されず、そのため使用も推奨されない」という結論が導かれました(上の図の*印がその閾値を指します)。
上の図のY軸である”Acceptability Value”は、「2群の治療間でのアウトカムの真の差が、許容される閾値を上回る確率」を意味します。
そしてX軸である”Acceptability threshold”は、「2群の治療間でのアウトカムの真の差の許容される閾値」を意味します。
たとえば、閾値が5%の時、これは95%信用区間の中央値にあたる数値であり、2群の治療間でのアウトカムの真の差が5%を上回る確率は50%となります。
閾値が-2.5%の時、これは95%信用区間の下限値になりますが、2群の治療間でのアウトカムの真の差が5%を上回る確率は97.5%であり、非常に高い確率で閾値を上回るということが言えます。
このように、従来の解析では事前に定めたたった一つの閾値に対して「高い、低い、だから治療が有効、有効ではない」というYes or Noの非常に大雑把な議論だけをしていたのに対して、ACCEPT Analysesでは95%信用区間を使用することで連続した複数の閾値を設定し、それぞれに対して「上回る確率」というものを計算しているため、よりInformativeな解釈が行えることがわかります。
また、従来の臨床試験のように特定の閾値を一つだけ選ばねばならないということもないため、「指定した閾値が間違っていたら、研究結果が解釈できない」という問題も生じません。
さて、ではいよいよACCEPT Analysesを使い、ERNEST試験の結果を解釈してみましょう。
従来の単一の閾値を使った解釈では、「両群の差が95%信用区間の下限値を下回る-2.4%であり、目標の0%に到達しなかったため、ターゲットの薬剤であるラルテグラビルの有効性は示されなかった」というものでした。
しかしながら、ACCEPT Analysesの結果を見ると、閾値が0を上回る確率は89%と非常に高く、どうやら「ラルテグラビルと標準治療の効果の差が0%を上回る確率は89%である」と解釈することが許されそうです。
さらにもう一つ、ACCEPT Analysesのメリットを紹介しましょう。
従来の解析では、非劣性、同等性、優越性などと「薬剤Aが薬剤Bと比べて、”どう”だと言いたいのか」という解析の目的を事前に設定せねばなりませんでした。
しかし、ACCEPT Analysesではこれが不要になります。
上の図のX軸が0の部分の時の”Acceptability value”が同等性試験の結果であり、また「薬剤Aは薬剤Bと比べて5%だけ劣っていても良い」という条件の非劣性試験の結果は、上の図のX軸が-5%の部分の時の”Acceptability value”を見ることで解釈することができます。
つまり、従来の解析では事前に3パターンの目的のいずれかを設定し、その目的に対して結果がどうだったかという単一の解釈だけが得られていたのに対し、ACCEPT Analysesでは一度の解析で複数の仮説に対する解釈を得ることができるということです。
なお、Twitterにて黒木先生が非常に有意義な考察をされていましたので、ここにシェアさせていただきます。
ツリーになっていますので、ぜひ最後までお読みになることをお勧めいたします。
終わりに
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