薬剤疫学・RWD研究の初心者がまず手に取るべき10冊

こんにちは、すきとほる疫学徒です。

 

本日は、「薬剤疫学を勉強したいけど、どこから始めたらいいの?」、「Real World Dataが流行ってるらしいから、ちょっと勉強してみたい」というほんとにほんとの初心者さんにお勧めの書籍を紹介していきます。

 

 

 

 

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薬剤疫学に関する書籍

わかりやすいEBNと栄養疫学

 

1冊目はこちら、東京大学大学院医学系研究科社会予防疫学教室の教授 佐々木敏先生による書籍です。

佐々木先生が毎年行っている疫学の講義をぎゅっと一冊にまとめたような書籍ですが、この講義は学部生・大学院生に大人気でして、日によっては立ち見が出るほどです。

 

書籍の内容としては、疫学における基本的な研究デザインやバイアスなどを、栄養疫学分野の実際の研究例を交えながら紹介している教科書的なものになります。

佐々木先生のご専門が栄養疫学のため、研究例は栄養疫学分野の研究メインになっていますが、疫学を理解する上では全く問題ありません。

疫学は方法論ですので、その対象が栄養であろうが、薬剤であろうが、社会であろうが、根底にある考え方は同じです。

 

何よりも、佐々木先生が書籍中で紹介してくださっている研究例が痛快だったり、ふんだんに盛り込まれている図表が印象的だったり、教科書ではあるものの、最初から最後まで一つの読み物として楽しめるように構成されています。

こちらの書籍の表紙からも十分伝わると思いますが、佐々木先生の教えって美意識が行き届いているんですよね。

使う言葉、掲載する図表、全体の構成など、どこを切り取っても「分かりやすく、楽しく疫学を伝える」という佐々木先生の信念が徹底されており、ただ単に疫学という学問を記述するだけではなく、生きている学問、美しい疫学のようなものが感じられます。

 

生きた疫学を学べるという意味で、この書籍を挙げさせて頂きました。

 

 

 

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これからの薬剤疫学 リアルワールドデータからエビデンスを創る

 

生物統計家として著名な佐藤俊哉先生と、元PMDAの石黒智恵子先生らによる書籍です。

特に薬剤の安全性におけるリアルワールドデータ研究に携わる方をターゲットにして書かれています。

 

この本の素晴らしいところは、非常に実践的に書かれているというところです。

薬剤疫学の知識をそのまま紹介するのではなく、”研究計画書の書き方”という大きな流れの中で、研究目的の設定方法、データベースの選択方法、各種変数の定義方法などを説明してくれるため、「もう明日から製版後データベース調査のプロトコールを書き始めないといけない」という立場に置かれている人にとって、実践に活かしやすい構成になっています。

 

「自分自身は疫学家や統計家のスペシャリストではないけれど、チームの一員として製版後データベース調査に関わっている」という方は、こちらの書籍をお読みいただければ、”製版後データベース調査のプロトコールを書いていく上で、どんなことを考えていかねばならないか”ということがよく分かり、プロジェクト完遂までのざっくりとした道筋が見えてくるかもしれません。

 

特に第三章の”リアルワールドデータの解析”は、これまでリアルワールドデータを扱ったことのない人にとっては必読だと思います。

リアルワールドデータって、「データがあるからなんか研究できる」みたいなものではなくって、収集された生データを研究で活用可能な状態にするまでに、膨大な労力がかかるんですよね(Data cleaningと呼びます)。

リアルワールドデータに関する書籍って、データがあることを前提に”どうやって解析するか”というフェーズに焦点を当てたものが殆どだったのですが、こちらの書籍はそこに至るまでの”どうやって解析に使えるデータにするか”というリアルワールドデータ研究の一番泥臭いフェーズにもしっかりと焦点を当てています。

 

なお、この書籍は全体のボリュームが179ページ(索引を抜いて)と少なく、薬剤疫学やリアルワールドデータの個々の知識の説明は最小限に抑えられています。

そのため、「専門知識を身に付けたい」という方が本書だけで学ぼうとするのは、やや苦しいかもしれません。 

 

どちらかというと、私は本書は「疫学家や統計家などのスペシャリストではないが、仕事の都合上リアルワールドデータ研究に携わらないとならない方」向けに書かれた書籍だと思っており、そうした方が「へぇー、スペシャリストってこんなこと考えながら研究進めてるんだ」とか、「なるほどね、プロジェクト完了までにはこういうステップを踏む必要があるのね」と、製版後データベース調査のイメージを掴むという目的で読まれると良いと思います。

個々の専門的な知識の記述は最小限なので、読んでいて「え、これってどういうこと?」という箇所にぶつかったとしても、「とりあえず、Prevalent user biasというバイアスがあって、薬剤疫学では気をつけないらしい」くらいの理解で先に進んでしまって良いでしょう。

そこから先はチーム内の疫学家、統計家の仕事だと思いますので、任せてしまえば良いです。

 

研究計画を立てる際にチーム内で議論していると、この書籍に書かれている専門用語がふっと会議中に出てくる可能性は高いと思いますので、その際に「あ、あの本で書いてあったことか」という感覚があるだけでも、だいぶ会議での居心地の良さが変わってくるのではないでしょうか?

 

 

 

医学と仮説 原因と結果の科学を考える

 

岡山大学大学院環境学研究科の教授 津田敏秀先生が、一般の方向けに因果推論の基礎を説明された書籍です。

因果推論とは、「曝露・介入AとアウトカムBとの間に因果関係があるかどうか」ということを考える際の基礎になる学問分野だと思ってください。

 

「え、そんなのちょっと考えればわかるじゃん」とお感じになる方もいらっしゃるかもしれませんが、科学の世界において「曝露・介入AがアウトカムBの原因である」と言えるのは、適切にデザインされた研究から導かれたエビデンスが複数蓄積された時だけです。

”適切なデザイン”ということを考える際の基礎になるのが、因果推論という学問なわけですね。

 

薬剤の臨床研究や製版後調査に関わる人にとっても、必須の学問だと思います。

例えば、皆さんが日々接しているであろう事例を取り上げると、コロナウィルスのワクチンの副反応の話なんかですね。

テレビやSNSでは、「ワクチン接種後に異常を訴えた方が〜」というような情報が飛び交っていると思いますが、ではとある疾患Xの原因がコロナウィルスワクチン接種かどうかというのは、どうしたら確認できますか?

 

少しでもそれを訴える患者さんがいれば良い?

少しじゃだめだ、たくさんだ?

患者は専門家じゃないから、医師の報告じゃないとだめだ?

たくさんの患者から情報を集めて、しっかりした研究をやらないとだめだ?

ランダム化比較試験をやらないとだめだ?

 

色んな意見があるかもしれません。

こういった時に、「こういう条件が成立すれば、コロナウィルスワクチン接種が疾患Xの原因だよ言えるよ、言えないよ」という考え方の基礎を教えてくれるのが因果推論という学問です。

 

こちらの津田先生の書籍では、そんな因果推論の基礎をタバコと肺癌、ピロリ菌と胃がん、水俣病と工場排水、タミフルと異常行動などバライティ溢れる事例とともに紹介してくれます。

科学哲学に関する記載が多分に登場するため、若干読みにくいかもしれませんが、それでも110ページちょっとの薄い本ですので、集中して一気に読み切ってしまえば良いかと思います。

 

 

 

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ストロムの薬剤疫学

 

薬剤疫学分野で世界的に著名な方であるストロム先生の書籍を、京都大学の川上浩司先生・田中司朗先生、慶應大学の漆原先生らが翻訳されたものです。

英語版の”Textbook of Pharmacoepidemiology”は薬剤疫学の教科書として世界的に用いられています。

 

しかしこちらの本、長い(約600ページ)、そして高い(約11,000円)。。。

ですので、”自身の専門として薬剤疫学をしっかり勉強しようとする方”ならばお手に取られると良いと思います。

「自分は専門じゃないけど、興味あるから」というモチベーションですと、ややオーバースペックさを感じる書籍です。

 

内容としては、さすが世界的に用いられている教科書ということで、産官学からみた薬剤安全性対策システムや、薬剤疫学という学問、そしてデータベースについてなどの説明がしっかりとされており、「がっつり学びたい方」には良いでしょう。

これまで紹介した書籍を読み終わり、「もっと勉強したい」という方はお読みになってみても良いかもしれません。

 

 

 

 

リアルワールドデータに関する書籍

超入門! スラスラわかるリアルワールドデータで臨床研究

 

日本のリアルワールドデータ研究を牽引される康永秀生先生らによる書籍です。

日本でよく使用される医療大規模データベースの紹介に始まり、データベースの構築方法や、データベースを用いた研究方法が非常に平易な語彙で紹介されています。

あとはSQLの使い方が丁寧に説明されているのも高評価です。

 

「リアルワールドデータを学ぶための一冊は?」と聞かれたら、もはやこの一冊以外思いつく余地はないくらい、初心者向けに分かりやすく書かれた解説本です。

 

なお、こちらの書籍はリアルワールドデータ研究をやったことがない本当に本当の初心者を対象にしているため、ある程度経験がある方にとってはやや物足りなく感じるかもしれません。

 

それでも、ところどころに挟まれるリアルワールドデータ裏話は大変含蓄があり、リアルワールドデータ研究に携わる全ての方にお薦めしたい書籍です。

 

 

 

超入門! すべての医療従事者のためのRstudioではじめる医療統計

 

文字通り、ほんとにほんとの超入門書です。

こちらは、”リアルワールドデータを自分で解析する”という方向けの書籍ですね。

ちなみに、上で紹介させて頂いた康永先生の研究チームによる一冊です。

 

DPCデータを模倣したデータのサンプルがついているため、実践的にRの使い方を学ぶことができます。

R本は世に溢れていますが、この本が素晴らしいのは”DPCデータやNDBなどの医療大規模データを解析する”という前提で、Rの解説がされているところです。

登場する変数は医療大規模データで実際に頻繁に使われる変数ですし、リサーチクエスチョンも医療大規模データで対処可能なものが具体例として挙げられています。

 

約150ページくらいの薄い本で、Rのコードのうち最低限のものしか書かれていませんが、医療大規模データ解析で使われるコードをほぼ抑えており、これさえやれば基礎は十分でしょう。

私自身が医療大規模データを解析する際も、この書籍に出てくるコードでほぼ事足りてしまっています。

もし+αの解説をする必要が出てきた際には、Googleで調べて対処すれば良いですね。

 

 

 

医療統計、データ解析しながらいつの間にか基本が身につく本〜Stataを使ってやさしく解説

 

こちらも同じく康永先生の研究チームによる一冊で、RではなくStataの使い方を紹介しています。

上2冊で康永先生本の分かりやすさは散々解説してきたので、もはや解説不要な気がしますが、R本と同様に非常にシンプルかつ実践的な内容になっており、Stataを使った医療大規模データ解析はこの一冊があれば殆ど完結すると思います。

 

 

 

 

その他のお勧め書籍

必ずアクセプトされる医学英語論文 改訂版

 

もはやしつこいと言われそうですが、再び康永先生の書籍です。

医学英語論文を書く方に向けて、リサーチクエスチョンの作り方から、論文の各セクションの書き方まで、大変シンプルで、それでいてツボを押さえた解説をしてくださっています。

 

医学英語論文を書く方はもちろん、「読み方が知りたい」という方にとっても超お勧めの一冊です。

論文の軸(リサーチクエスチョン)というものがどのように設定されていて、それぞれのセクションに何が書いてあるかという全体構造に関する知識を持っていた方が、論文は読みやすいに決まっております。

 

私がこの書籍に出会ったのはもう4年前くらいだったと思いますが、今でも論文を書く際には時どき読み直し、「そうだそうだ、初心を忘れていた」と、この書籍に立ち返っています。

 

 

 

僕らはまだ、臨床研究論文の本当の読み方を知らない。〜論文をどう読んでどう考えるか

 

ハーバード大学に留学され、現在は国内で臨床、研究、教育活動と多岐にわたってご活躍されている後藤匡啓先生による書籍です。

 

先ほどの康永先生の書籍は、「論文を書く」方向けに書かれた書籍でしたが、こちらは「論文を読む」方向けに書かれた書籍です。

ですので、さまざまな研究デザインの医学論文のそれぞれのセクションを、どう読んでいけば良いのかということが丁寧に解説されています。

  

 

 

 

必ず読めるようになる医学英語論文 究極の検索術×読解術

 

「またか!」という声が聞こえてきそうですが、そうなんです、またなんです。

再び、康永先生による書籍でして、「書き方本」に加えて、しっかり「読み方本」もご出版されています。

 

素晴らしいのはもはや言うまでもないと思うのですが、ところどころ登場する名言に痺れます。

 

・論文読解は、著者との疑似対話である。

・論文にエンターテイメント性は求められない

・斜め読み現金

 

この書籍は、論文の読み方を「今この瞬間から実践できる超具体的方法」とともに紹介しており、英語論文を読み始めたばかりの初学者がまず手に取るべき一冊と言っても過言ではないでしょう。

 

 

 

 

Twitterで紹介して頂いた書籍

私が挙げていなかったものに加えて、Twitterで薬剤疫学に詳しい方から何冊か書籍をご紹介頂いたので、掲載させて頂きます。

 

rk_seamlessさんよりご紹介

https://twitter.com/rk115877/status/1480506894641172488

 

ロスマンの疫学は疫学を勉強する全ての方が目を通すべき基本のキとなる書籍ですね。ちなみに、同じくロスマンらによる書籍として疫学の専門書の金字塔であるModern Epidemiologyという書籍がありますが、初学者の方には全くお勧めできません。つい先日、第四版が新しく刊行かれましたが、相変わらずの難解さ、ボリューム感でして、疫学を専門に勉強している学生・若手教員が輪読会でなんとかモチベーションを保ちながら少しずつ読み進めていくというのが望ましいスタイルだと思います。

 

3冊目のアドバンスド分析疫学はおなじみ京都大学の木原正博・雅子先生らによる翻訳本シリーズの一冊。木原先生らは世界中の医学研究の名著と呼ばれる書籍を日本語に翻訳するプロジェクトを進めてらっしゃいまして、アドバンスド分析疫学の他にも良い書籍が沢山あります。ほとんどが初学者向けの書籍ですので、「疫学を学びたくてしょうがないぜ、どんどん書籍読みたいぜ!!!」という向上心溢れる方は、とりあえず木原先生らの書籍を何冊か読んでいけば良いと思います。

 

2冊目の薬剤疫学の基礎と実践は、rk_seamlessさんより「薬剤疫学会の公式テキストみたいな感じ」と教えて頂きました。私はまだ目を落としたことがないので、ぜひ今度読んでみようと思います。

 

 

お薬屋さんよりご紹介

https://twitter.com/CareerPharm/status/1480535756414533637

 

康永先生本シリーズの一冊、通称黒本ですね。

ちなみに康永先生本シリーズは本のサイズ、ページ数がシリーズ通して似通っておりまして、表紙の色が青、赤、黒などと分かれております。そのため、赤本、黒本などと色名で本を呼ぶことがあります(チャート式みたいですね)。

こちらは、疫学研究で用いる基礎的な統計手法を学び終えた方にお勧めの書籍でして、一歩進んだ(だけど医療大規模データベース研究ではよく目にする)統計手法を紹介してくれています。

 

初学者の方ですと、論文読むたびに知らない統計手法に出会して、そこで「?」となってしまうことってよくあると思うんですよね。

そんな時はこちらの黒本をご一読されると、「ああ、あの本で書いてあったあの手法ね」と、ある程度は親近感をもって読めるかもしれません。

 

 

  

 

終わりに

さて、いかがでしたでしょうか? 

今回紹介させて頂いた書籍は、どれも短く、かつクリティカルに薬剤疫学やリアルワールドデータの知識を伝えてくれている良著ばかりです(ストロムの薬剤疫学だけは大作ですが)。

 

読む前と後とでは、薬剤疫学、リアルワールドデータを見る目が全く変わるということもあるかもしれません。

そう気張らずに読書気分で読める書籍もいくつかありますので、ぜひコーヒー片手にカフェなどでお読みになってみてください!

 

 

 

 

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